【講義ノート】「人類学A」2020/05/18

のっけから私事になってしまいますが、ここ一週間ほど下痢と発熱をともなう風邪のような症状があり、右往左往しておりました。内科医の診察を受けたところ、まあ、ただの風邪でしょうから、様子をみてくださいと言われました。(→「2003年雲南 2020年東京 発熱の記録」)

こちらの教材も予習できるように早めに準備しておきたかったのですが、作業がすこし遅れておりまして、コンテンツとリンクが混乱しています。どうかご理解のほどを。


いま世界で起こっている感染症のことについて考えることは重要ですが、それを個々の学問分野と結びつけていくことは更に重要です。とはいえ、時事的な問題ばかりに振り回され、いつまでたっても人類学という本題に入れないのでも本末転倒です。

そう言いながらも、ちょっと風邪のような症状が出ただけでも気になって病院や保健所に電話したり、普通の病気はとちがい、感染症というのは社会を巻き込んでいくものですから、身をもって関わらざるをえないのです。人類は、世界大戦のような目に見える暴力とは違う意味で、あるいは、人口の半分が死亡してしまうような壮絶な伝染病とも違う、今までになかった出来事の中にいます。



先週に引きつづき、ここ数ヶ月の所感を綴った「ウイルス感染症にかんする考察」をとっかかりにして話を進めようかと思いつつ、珍獣食文化についての議論を「肉食の象徴論 ー人畜共通感染症の文化的背景ー」という別のページに切り出しました。

講義というのは、演繹的に概念の説明から始めたほうが体系的なものになるのですが、帰納的に具体例から入ったほうが初学者にはわかりやすい、というジレンマがあります。いきなり「人類学とは何か?」という大前提から入っていくよりは、できるだけ具体的な、今ここで起こっていることと結びつけながら、話をはじめたほうがわかりやすいのです。

人類学の授業に対するコメントに、もっと先生の冒険談が聞きたい、というものがありました。しかし、学者は冒険家とはちがい、危険を冒すのは目的ではなく、むしろ、いかに安全に調査を進めるために危険を回避するか、そちらのほうに醍醐味があります。

個人的には、そもそもが軟弱者ですから、冒険などといえるほどの冒険はしたことはありません。しかし、中国で2003年にSARS騒動(そして2013年の鳥インフルエンザ問題)に遭遇してしまったことは、いままでの調査旅行の中では、2001年9月11日の同時多発テロ事件のときに南米にいたことと同じか、それ以上の「冒険」でした。とはいえ、敢えて危険な場所に行ったわけではありません。安全だろうと思って行ったところで、突発的な事件に巻き込まれてしまったのです。

中国の屋台で怪しい食べ物を食べて病気になった、という冒険談は面白いかもしれません。しかし、それが人類学という学問の本質ではありません。

いま、世の中が「コロナ」で大混乱です。しかし、その原因はどこにあるのでしょう。安倍政権の政策の誤りでしょうか、中国政府の情報隠蔽でしょうか。

しかし、大元をたどれば、じつは、市場に落ちていたコウモリの糞である可能性が高いのです。中国の屋台で謎の珍獣が売られている、などというのは、どこか遠くの世界の出来事かと思いきや、それが全世界を揺るがす大問題の元凶になってしまうのですから、なんともグローバルな不条理です。しかし、その不条理さに理性的に向かい合うことができるのが人類学の本領です。

詳細は「肉食の象徴論 ー人畜共通感染症の文化的背景ー」に書きましたが、日本人が「中国は不潔だ」などと言えば、異民族を蔑視するだけで終わってしまいます。しかし、東京でもハクビシンは増殖し、「通」はカフェでジャコウネコの糞を賞味しているのですから、ひとつ間違えれば、東京の商店街から謎の伝染病が発生し、世界的な大流行が起こってもおかしくはないのです。

海外の辺境に不思議なものを求めて旅をして、物珍しい土産話を持ち帰るだけでは終わりではないのです。しばらく海外にいて、ひさしぶりに日本に戻ってくると、ふだん暮らしている平穏な日常の中にも、不思議なものがたくさんあることに気づきます。

[文化]人類学は異文化理解の方法であり、自文化を映す鏡である、という所以です。



人類学Aと人類学Bは独立の科目ではありますが、同じ教員の担当であり、どちらも最初に「人類学とは何か」という定義から講義を始めています。この授業では、人類学とは、人間やその社会を、自然科学と人文・社会科学の両面からとらえる学問だという立場で進めていきます。

自然人類学においては、とくに生物学、さらには遺伝学と脳神経科学が重要になってきます。ウイルスとの戦い、というのは比喩的に理解しやすい表現ですが、ウイルスとはいわば純粋な遺伝情報であり、ウイルスのに目的があるとすれば、それはただ自らの遺伝情報のコピーを増やすことであり、人間など宿主を攻撃するという目的を持っているわけではありません。ウイルスが自身の遺伝情報をコピーするために宿主の体を借りるために、宿主が病気になることもあるということです。

ウイルスにもDNAを持つものもあれば、RNAを持つものもあり、新型コロナウイルスは1本鎖RNAであり、それが感染しているかどうかを知るためには、唾液などに含まれる微量のウイルスをPCR法によって増幅して検査することができます、といっても、RNAPCRという言葉を知らないと理解できません。

文化人類学社会人類学の側面としては、2003年のSARS流行事件から、中国雲南省少数民族ナシ族・モソ人の伝統文化の調査へと話をつなげていきます。社会構造の面では、とくにモソ人の社会では、通い婚を基本とした母系社会が特徴的で、また精神文化の面では、独特の他界観を反映した葬送儀礼が特徴的です。SARS流行下での調査は大変でしたが、自分が死にかけているときに隣の家でお葬式が始まるという不思議なシンクロニシティが起こり(自分が生き延びたいっぽうで亡くなられたかたがおられたのは残念ですが)葬送儀礼の一部始終をしゅざいすることができました。その時の映像をお見せしながら、授業を進めていきます。

読むべきページ

あらためてまとめておきます。

まず「人類学とは何か?」には目を通しておいてください。

それから「2003年4月、SARS流行下、四川省・雲南省における調査記録」を見てください。長い時系列の記録ですが、四川省成都の夜市に行った4月18日の記録から「肉食の象徴論 ー人畜共通感染症の文化的背景ー」に飛んでください。

その後、また「2003年4月、SARS流行下、四川省・雲南省における調査記録」に戻って、4月21日に雲南省に移動した記録から、「走婚と送魂ー雲南ナシ族・モソ人の親族構造と死生観」に飛んでください。そのページの中に以下の四個のリンクがあります。

これらをそれぞれ見てもらえれば結構です。かなり内容が多いので、上に書いた内容だけで二週間ぶんになりそうです。

リンク先のページの先に、さらにリンクがありますが、これは、どこまでも辿っていけるものです。関心のあるところに飛んでみてください。



口頭でお話しすれば簡単なことでも、いざ文字で書いてみるとダラダラと長くなってしまいます。余談や冗談など書きはじめるときりがありませんし、教材を提示しながら音声で解説を補う、という方法も検討してみます。

CE2020/05/16 JST 作成
CE2020/05/18 JST 最終更新
蛭川立

蛭川担当授業FAQ

授業やレポートにかんして質問がある場合には、質問の重複を避けるために、まず以下の「よくある質問」を読んでみてください。

それでも疑問が残る場合には、蛭川の公式アドレス

まで、e-mailをお送りください。

授業の進めかたについて

毎週決まった時間に受講する必要がありますか

毎週決まった時間に、オンラインで文字による「ディスカッション」を行いますが、出席は必須ではありません。出席は成績評価に含めません。

ネット上の記事を読むだけで勉強になりますか

必要な資料はこの「蛭川研究室ブログ」にアップしてありますが、質問があれば随時受け付けます。

音声や動画による授業は行わないのですか

リアルタイムでの動画通信はしません。文字だけのリアルタイム掲示板方式のほうが、周囲を気にせず発言できるらしく、議論が盛り上がるからです。

ただし、教材のページの内部には、必要におうじて、画像や動画のリンクを貼っています。蛭川が自ら撮った映像のほか、他のサイトへのリンクもあります。

先生がどんな人物なのか、見たこともない、と言う感想も聞きます。動画で講義を録画するという方式も考えていますが、さしあたりは、授業の教材の中に、調査中に撮影した写真や動画があり、そこに私が登場し、現地から講義をすることもあります。


Zhemgang Tsechu 2550/2007
ブータンの春祭り「ツェツュ」

教材の閲覧について

教材の閲覧に必要な機材は何でしょう?

Wi-Fiまたは電話回線に繋がっているPC、タブレットスマホのいずれでも、それぞれの画面に適したサイズで閲覧できます。

より大きな画面のほうが、沢山の情報を同時に見やすいので、お薦めですが、手元にスマホしかない、とか、移動中に見たい、という場合には、スマホでも問題ありません。

教材を閲覧できる機材を持っていません

手元に大きな画面のPCやタブレットがないので困る、という場合には、大学のほうで貸与する仕組みが検討されています。詳細はお問い合わせください。

Oh-o!MeijiでURLをクリックしてもリンク先のページに移動できません

これは、Oh-o!Meijiシステム自体の問題です。お手数ですが、URLをコピーして、ブラウザの新規ページにペーストしてもらうしかありません。

教材のページのリンクをクリックするとパスワード認証画面が出てきてコンテンツが表示されません

以下のような認証画面が出てきた場合、はてなブログに特有の認証画面です。


著作権や個人情報の保護などのために、必要におうじてコンテンツにパスワードをかけています。詳細は「『なぞなぞ認証』について」をごらんください。

教材のページを開くと文字は表示されますが画像が表示されません

教材用に使っている「はてなブログ」に不具合が発生し、一部の画像が表示できないという問題が起こっています。もし画像が表示されないページがあれば、閲覧環境(PCかスマホか、ブラウザの種類など)もあわせてお知らせください。(私はMacOSのPCを使っているのですが、ときどきWindows環境と齟齬をきたすことがあるようです。)

Oh-o! Meijiの「ディスカッション」で、URLをクリックしてもリンク先のページに移動しません。

Oh-o! Meijiのシステムに何らかのバグがあるようです。お手数ですが、いったんURLをコピーして、ブラウザのアドレス欄にペーストしてください。

リンクが多数あってどこまでたどれば良いのかわかりません

好きなところまで辿って読んでください。ところどころにWikipediaなど外部へのリンクも張ってあります。相互にリンクしながらインターネット上に展開するハイパーテキストのことをWWW(WorldWideWeb)つまりクモの巣と喩えますが、むしろ好きなところまで辿っていけるのがネットサーフィンの面白いところだと思います。

とくに今年は混乱した状況の中で日々考えたことを書き綴った私的・日記的なメモと、大学での教育研究用の資料が入り乱れていますが、これも、敢えて混ぜています。日々変動する状況と授業を動的に結びつけながら話を進めていきます。

たくさんのリンクを辿っている間に迷ってしまいました

迷ってしまうぐらいがネットサーフィンの面白味ですが、このページには興味深いことが書かれているから、後からもういちど見直そう、と思う場合は、ブックマークをつけるとよいでしょう。ダウンロードするのもよいと思います。ダウンロードしたコンテンツを、許諾なしに一般にアップロードしないかぎりは、著作権的には問題ありません。

また、リンクを開くときに、HTMLでいうところの「blank」、つまりいま見ているページを残しつつ、別のタブまたはウインドウでリンクを開いていくという方法をとれば、いま見ているページを残したまま、リンク先のページを表示させられます。

どこまで勉強すれば単位が取れるのでしょう

単位を取るために授業をとる、というのは本末転倒です。好きなところまで勉強してください。ただし、このコンテンツは読んでほしい、というページは、毎度の講義ノートで指定します。

ディスカッションについて

出席はとりますか?

出席はとりません。バーチャル教室ではありますが、遅刻や早退は自由です。

何を書けばいいのでしょう

授業の内容、とくに、講義ノートからリンクされている教材の内容についての質問やコメントがあれば、書いてください。とくに、内容が間違っているのではないかという疑問があれば、ぜひ指摘してください。内容に間違いがあれば、訂正しなければなりません。

また、授業の内容とは、直接関係のない、あるいは、思いつきを書き込んでもらってもかまいません。あまりにも無意味なコメントはスルーしますが、今のところ、そういうことは、ありませんでした。

ただし「よろしくお願いします」等の、挨拶だけの投稿は、どうか、書き込まないでください。挨拶はとても良いことであり、嬉しいことなのですが、蛭川担当授業は現在、すべての科目で五百名程度の履修者がおり、そのうちの百名でも挨拶投稿があると、掲示板での議論が流れて行ってしまいます。

授業時間が終わってから書き込んでもよいですか?

はい、書き込んでもよいですが、質問であったとしても、すぐにはお答えできません。

成績評価について

出席はとりますか?

出席はとりません。

定期試験はどのように実施しますか?

教室での試験の代わりに、期末レポートを課します。論述式になります。

期末レポート以外にレポートは課されますか?

期末レポート以外のレポートは課しません。(他の授業でもレポートが多くて負担が大変だと聞いています。これは、オンライン授業の双方向性を担保するための措置でもあることをご理解ください。)

情報が不足していて、本当に成績がもらえるのか心配です

授業の内容にもよりますが、蛭川担当の講義については、おおよその考えかたが理解できていればじゅうぶんです。ご心配なく。

ただし、模範解答のない論述式の答案なので、客観的に採点して完璧だから百点満点という採点はできません。その点は御理解ください。

期末レポートについて

今年度も、昨年度に引きつづき、教室での試験ではなく、Oh-o!Meijiに期末レポートをアップするという方式で行います。緊急事態宣言の朝令暮改にともない、教職員も対応に右往左往しているのが実情です。予期せぬトラブルが起こる可能性もあるので、締切の日程・時間には余裕を持って対応してください。

レポートの内容は、どのようなものですか?

授業の内容にかんする記述式のレポートです。レポートですし、細かい知識を問うよりは、全体的な考えを端的に議論してもらいたいと考えています。

レポートの問題はいつ、どこに発表されますか?

期末レポートの課題は、2022年1月23日に、Oh-o!Meijiシステムと、この蛭川研究室ブログにアップしました。

レポートの提出期限はいつですか?

秋学期の「人類学B」と「身体と意識」の両方の科目で、日本時間で西暦2022年1月24日(月曜日)の00時00分から、1月27日(木曜日)の23時00分までです。これより先に提出しても、システムの都合上、受け付けられませんので、ご注意ください。

締切直前になりますとアクセスが集中しサーバーが遅延する可能性がありますゆえ、締切の数時間前には送信し終えることをお勧めします。

問題文はどこにありますか?

「人類学B」と「身体と意識」の両方とも、問題文と解説の文章が長すぎるため、前半と後半の2個に分けてアップしました。

レポートの提出が期限に間に合いませんでしたが、e-mailなどで受けとってもらえますか?

レポートの受付は機械的な仕組みになっていることもあり、期限を過ぎたものは受けとれません。通信速度の都合上、[とくに個人宅のWi-Fiなどの]回線が混雑することがあり、送信に数十分程度の遅延が生じる場合がありますから気をつけてください。

ただし、特別な理由があれば、その理由を書いて、個別メールにて蛭川のアドレス宛に直接、不服を申し立ててください。たとえば、急な重病や、災害による停電など、やむを得ない場合には、事情を考慮するかもしれません。

ワクチン接種後に発熱したり、体調が悪化してレポートが書けなかったという訴えもありますが、接種後に軽い症状が出ることは予想されることで、試験期間という短い期間に接種の予約を入れてしまったことが問題です。

問題が起こった場合には、本当は一人ひとりとゆっくりお話ししたいという気持ちはあるのですが、それでも一律に締切時間を決めているのは、毎年どの授業も受講者数が非常に多いという理由もあります。また、余裕をみて締切に間に合うように提出した人たちに対しても不公平になるからだということをご理解ください。

数日でレポートが書けるでしょうか?

蛭川担当科目では、だいたい毎年、教室での試験で、持ち込み不可で、一時間程度の試験時間で書き終えられる内容にしています。オンラインでのレポートとなっても、それほど時間がかかるものではないと思います。

下調べにはすこし時間がかかるかもしれませんが、持ち込み不可の試験とは違いますから、今でも、レポート執筆中でも、ネット上の教材やその他の情報源は、いつでも閲覧できます。

レポートのファイル形式は何ですか?

送られてきた2個の「*.docx」のファイルにそのまま文字を打ち込んで返送してください。ねんのため、手元には必ずコピーを残しておいてください。

ファイルは2個アップされています。2個の設問に対して、1個ずつ回答して、2個のファイルを提出して下さい。処理の都合上、2回に分ける必要があったからです。ややこしくてすみません

印刷して手書きにしたり、*.pdfなど他の形式のファイルにはしないでください。

Macユーザーなどで、Microsoft Officeを持っていない場合には、Pagesなど、他のアプリを使うことになりますが、その場合も、保存するときには、ファイルを「*.docx」形式に変換してください。

なぜ1人で2個のファイルを提出しなければならないのですか?

各科目、約千枚の記述式試験を採点するためには、そのほうが効率が良いからです。システムの仕組みと採点者側の都合ですが、ご理解ください。

2個のファイルはどこに提出すれば良いのですか?

レポート課題の出題が2個に分裂してしまい、ご不便をおかけしています。(じつは、最終的には、どこに出してもらっても届くのですが)各科目、約千枚のファイルを遺漏なく処理するために、2個別々にファイルを添付したところに、それぞれ解答記入済みのファイルを返答してください。

氏名や番号を記入できません。記入しようとすると文字の色や形がおかしくなります。

大学のほうで指定しているフォーマットで、書き込み禁止を解除しないと書き込めないことがあります。調整してもうまくいかないようなら、答案の一行目に、学部学科、氏名、学籍番号など、必要な情報を書いてもらえば、それで問題ありません。

改行がうまくできません。罫線に文字がおさまりません。

文章が書けていれば、罫線は無視してもかまいません。どうしてもおかしくなってしまう場合は、あらためてA4のMS-Word形式のファイル(*.docx)を用意して、学部学科、氏名、学籍番号や、回答した問いの番号など、必要な情報を漏らさず書いてもらえば問題ありません。PDFなど、違うファイル形式での提出はしないでください。

表紙をつける必要はありますか?

表紙は不要です。

字数制限はありますか?

解答用紙におさまれば良いので、とくに下限も上限もありません。数行だけで、ほとんど議論になっていない答案は不合格にしますが、何文字以上という数字は決めません。

解答用紙が1枚では足りません

2面ありますから、それで充分だと考えています。複雑になりがちな議論を簡潔にまとめるのも勉強のうちです。手書きではなくワープロであれば、長めに書いて、推敲しながら字数を減らしていくという書き方もできます。

引用はどの程度正確に示せばよいですか

引用や参考文献ですが、学術論文であれば、相応のフォーマットがありますが、今回のレポートでは、細かい書式は気にしなくてもかまいません。

しかし、もっとも重要なことだけは心得ておいてください。つまり、他の人が書いたことや考えたことを使わせてもらった場合には、それを明記すべきだということです。他の人が書いたものをコピー・アンド・ペーストすること自体は悪いことではないのですが

  1. 引用した部分を明確にすること
  2. 引用した元の出典を明記すること

が大原則です。この原則さえ心得ておけば、細かいフォーマットは、今回のレポートでは気にしなくてもかまいません。

問題が曖昧で解答がうまく書けません。

基本的には、皆さん一人ひとりの考えがきちんと述べられていれば、その議論の論理性を評価します。たしかに、問いかけは曖昧ですから、それに対する正確な模範解答というものもありえません。どうか、考えたことを自由に持論を展開してください。議論の結論自体で減点にすることはありません。

  • 議論は自由です。しかし…

設問では、模範解答のない、微妙なテーマも扱っています。議論は自由とはいっても、根拠のない議論や、矛盾した議論は不可です。

  • 議論には根拠が必要です

たとえば、「新型コロナウイルスは中国が開発した生物兵器である」であるとか「新型コロナウイルスは米軍が開発した生物兵器である」という仮説は、仮説としては成り立ちます。馬鹿馬鹿しいからといって、根拠もなく否定するのは、むしろ論理的ではありません。しかし、可能性が低く、検証の困難な仮説を論じるのであれば、相応の根拠を示す必要があります。同様に、現代の科学ではまだ説明できないような現象を、じゅうぶんに説明できないからといって否定するのは、論理的ではありません。臨死体験の解釈として、魂が肉体を抜け出して死後の世界に行くのだという仮説もありえます。アマゾンの先住民族は、アヤワスカ茶を飲むと精霊が出てきて、病気の治し方を教えてくれる、と言いますが、それを否定するためには、相応の論理的根拠を示す必要があります。

  • 議論には矛盾があってはいけません

また近年、「大麻は違法であるが、タバコに比べても、身体に悪くないのだから、使用しても良い」という主張を散見しますが、これには法的な矛盾があります。もし「大麻は身体に悪くないのだから、使用しても良い」という論を立てるのであれば「大麻は合法化(あるいは非犯罪化)すべきである」という論を併記するべきです。あるいは「タバコは身体に悪いのだから、大麻と同様、違法にすべきである」という議論にも論理性があります。合法性と善悪の価値観は独立です。そして、法律は、手続きに従って改正することができます。

頑張って解答しました。コメントはもらえますか?

本当は、そうしたいのですが、残念ながら、一人ひとりの答案にはコメントは返せません。単純に、履修者が多いからです。ご理解ください。

その他

授業では先生のスプーン曲げは見られないのですか

残念ながら、今年度は皆さんの目の前で曲げてみせることはできなくなりました。

自分で曲げているのを撮影した動画をアップすることもできますが、それではいくらでも不正行為ができてしまいます。テレビで放映しているものも同様ですから信用できませんよ。



CE2020/05/08 JST 作成
CE2022/01/27 JST 最終更新
蛭川立

【講義ノート】「不思議現象の心理学」2020/05/15

【お知らせ】蛭川はここ数日、体調を崩し、教材の整備が遅延し、作業が混乱していました。しかし、昨日、無事に快復しました。原因ははっきりしませんが、ご理解のほどをお願いいたします。(5月15日)

臨死体験の話から、不思議現象という本題に入っていこうと考えてはいたのですが、否応なく同時代的な状況に巻き込まれてしまいます。今日もまた正体不明の発熱の話からお聞きください。

科学リテラシー」や「リスクコミュニケション」の問題でもあります。



病気の流行が不安を流行させてしまいます。

著名人が「コロナ」に感染しただけで、ニュースになったり、それで死亡すれば、もっと大きなニュースになります。そのうちに、自分の身の回りの人も、自分じしんも、同じ病気に感染してしまうのではないかと、だんだんに気になってきます。

ちょっと咳が出たりしただけで、大丈夫かな、と思って体温を測ってみたり。ふだんは、そんなことで体温など測らないのに、測ってしまうと、微熱だったりする。やはり感染したか、と思ってしまい、また体温を測ってしまう。これが「確証バイアス」という「認知バイアス」なのです。(→「抗原と抗体とPCRと」)。

じっさいに周囲を見回したとき、日本と区切れば感染者は、症状が出ていない人も含めて、およそ一万人です(→「感染予測シミュレーションによる検討」。一億人の人口のうち、一万人に一人の割合です。

これぐらいの人数だから、人口数万人規模の村落社会では、逆に問題になるのかもしれません。しかし匿名性が高く人口密度が高い都市の場合、周囲にいる人の一万人に一人が感染しているといわれても、ピンと来ません。目の前にいる人が感染している確率は、一万分の一です。

そういう数字を聞いても納得が行かないと、検査が進んでいないだけで、本当は感染者は発表されている数の十倍も百倍もいるのではないか、と、また心配になってしまうものです。

もう流行は終息に向かっているではないかという数字を見ても、外出自粛を緩めれば再流行が起こるとか、第二波がやってくるのだとか、不安なことを考えはじめると、きりがありません。

現状や将来に問題を見出し。それを改善していこうと考えるのは良いことですが、そのためには、現状の正確な分析が必要になります。

たとえば、著名人がインフルエンザに感染しても、ニュースにはなりません。たとえインフルエンザで死亡したとしても、インフルエンザで死亡したこと自体はニュースにはなりません。

それでは「新型コロナウイルス感染症」は「インフルエンザ」よりも、ずっと危険な病気なのでしょうか。それは、どれぐらい症状が重くなるか、どれぐらい感染するか、人口の何割ぐらいが感染するか、といった多方面からの比較が必要です。

たとえば、日本だけでも総計上は毎年137万人が死んでいます。大多数は高齢者です。老衰死は11万人です。その数をどう評価するかです。(→「日本における出生数、死亡数とその原因」。たとえば、ある病気による死者数は、こうした数と比較して検討しなければ意味がありません。

しかし、病気として危険かどうかは別にしても、未知の現象は、じっさいよりも、より危険なものとして認識されてしまいます。(→「友野典男行動経済学』」。


臨死体験のことはさておき、祈祷による病気治療は昔から行われています。たとえば平安時代真言密教が国教のようになったときには、空海が唐から持ち帰った三密加持(身体・呼吸・意識についての秘密のコントロール法)によって疫病退散ができるとされていました。

雲南モソ人の祭司による疫病退散の読経」に、中国の少数民族の祭司による病気平癒の読経について書きました。雲南省の北部の山岳地帯は、チベット密教の文化圏と連続しています。

もし祈祷による治療が効いたとして、ひとつの仮説は、祈りが本当に物理的・生理的な作用を及ぼすということであり、その可能性は「不思議現象」として研究する必要があります。はじめから「ありえない」と決めつけるのは、論理的な思考ではありません。

また同時に「プラセボ効果と象徴的効果」についても知っておく必要があります。

プラセボは、信じれば効くし、信じなければ効かないというものです。ダパの読経の後、私がお腹を下したのは、ダパの祈りが弱かったのか、あるいは彼を頼りない人物として信頼していなかったからかもしれません。

いったん体調が悪くなるのは「好転反応」であって、治療の初期段階で「毒素」が体外に排出されたのだ、という説明はできますが、それは事後的(ポスト・ホックな)「言い訳」になってしまいます。

漢民族の社会で(あまり美味しいとは思えない)コウモリがやセンザンコウがが食されているのは、美味と言うよりはむしろ貴重な漢方薬といった意味合いが強いようです。

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なぜ中国人は何でも食べる?」『中国国際放送局』(→動画
 
すべての中国人(漢民族)が何でも食べるわけではない。いまだに奇妙な迷信を信じている人がいて、SARSから教訓をくみ取ることができなかった

日本でも男性的精力のつく動物として、たとえばスッポンやマムシが食されてきました。成分として亜鉛などのミネラルが含まれているというのも、ある程度は事実のようですが、その形態や生態が男性的な力を「象徴」しているという理由も大きいといえましょう。

ただし、人畜共通感染症にかぎっていえば、「ゲテモノ」を食べること自体は問題ではありません。(上の動画でも混同がありますが、野生動物を保護することと、感染症の問題は別です。)生きたままの動物から出る唾液や排泄物の中には病原体が含まれていますが、よく熱を加えて調理すれば問題はありません。(食文化の相対性については「食べてよいものと食べてはいけないもの」で議論しています。)

ハクビシンと同じジャコウネコ科のジャコウネコの糞からつくられる、ジャコウネココーヒーのことは前にもすこし触れたかもしれません。(→「『最高の人生の見つけ方』」)日本でも、感染症を引き起こしかねない状態で変わった動物が食用にされています。中国で起こったことは、けっして対岸の火事ではありません。ジャコウネコからはSARS関連コロナウイルスが検出されています。

東京の喫茶店謎の肺炎が発生し、ついには世界を恐怖と混乱に巻き込む、ということさえ、起こりうるのです。

本日の要点

読んで参考になるかもしれない記事

抗原と抗体とPCRと
「『最高の人生の見つけ方』」

→講義全体の日程「不思議現象の心理学 2020年度



CE2020/05/08 JST 作成
CE2020/05/15 JST 最終更新
蛭川立

【講義ノート】「不思議現象の心理学」2020/05/08

このページの内容

「不思議現象の心理学」とは不思議な講義名称だが、もともとは石川幹人先生が新設された授業である。石川先生が大学院の仕事などでご多忙ということもあり、蛭川が担当を受け継いだ。

このページで扱った内容についてのコメントは、ページの下のほうにある「コメントを書く」をクリックすると、誰でも書き込むことができます。

授業内容

「不思議現象の心理学」では「心霊現象」や「超常現象」と呼ばれる現象自体を、心理学的に分析すると同時に、そうした現象をめぐる観念や言説についても、心理学的に分析する。


授業もようやくオンライン上で開始という異例のスケジュールになったが、この非常事態に心霊現象というのも唐突かもしれない。だから、まずは時事的な話題からはじめて本題へ進めたい。

ウイルス感染症にかんする考察 ー生物学的次元と心理社会的次元ー」のリンク先をクリックしてもらえれば、詳しく書いてあるのだがーのっけから個人的な体験ではあるがーいまから17年前、2003年4月、中国で調査中に熱を出して倒れてしまった。

ちょうどSARS(いま流行中の「新型コロナウイルス感染症」の一世代前の「旧型コロナウイルス感染症」)が急速に流行を拡大していたときで、自分もこの謎の病気で死ぬのかと、生死を彷徨うような悪夢にうなされる中で「病気は治ります」という声を聴き、翌日には快復した。

臨死[様]体験

この体験の詳細は「2003年4月、SARS流行下の中国で発熱、臨死様体験」に書いた。またインフルエンザで発熱してしたときのことも「発熱による臨死体験」に書いた。

人は、死にかけたときに「あの世」を垣間見ることがある。しばしば「まだこちらに来てはいけない、戻りなさい」などという声を聞いて、意識を取り戻すこともある。これを「臨死体験」という。

まだ若い学生諸君にこんな話をしても、と思いきや、受講生の皆さんにレポートを書いてもらうと、意外に数十人に一人ぐらいの割合で、臨死体験のような経験があるということに驚かされる。原因は、事故であったり、病気であったり、病気とはいっても、瀕死の重病だけでなく、インフルエンザで熱を出したとき、という話も散見する。

臨死体験は、死後の世界を垣間見る体験なのだろうか、物質的な肉体が死んだ後も、意識の働きは霊魂として存続するのだろうか。それとも、臨死体験とは、脳が瀕死状態で見る幻覚なのだろうか。

祈りは病気を治せるか

またーこれも私個人の体験であるがー病気になったとき、夢で神仏のお告げを聞いたら治ったとか、あるいは、シャーマンや霊能者といったひとたちが祈ったり、治療儀礼を行うことがあるが、それで病気が治るのだろうか。

現代の社会にも、病気になったのは祖先の供養不足だという言説は流布しているし、納豆を食べればウイルスに感染しにくくなるとかいう話もあれば、コウモリを食べるとウイルスに感染するという話もある。

いや、コウモリを食べた人たちはウイルスに感染したかったのではなく、珍味が食べたかったのである。中国の一部では、珍獣食が滋養強壮の漢方薬のようなものとして流通しているらしい。

(ただし、臨死体験という体験の分析については、秋学期の同じ曜日の同じ時限に行われる「身体と意識(2020年度)」でより詳しく扱う予定。)

授業内容にかんする記事の一覧

以下に、今回の授業内容と関連するページを列挙しておく。

必ず読むべき記事

読むと参考になる記事


→講義全体の日程「不思議現象の心理学 2020年度



CE2020/05/06 JST 作成
CE2020/05/08 JST 最終更新
蛭川立

人類学B 西暦2020年度

月曜日・2限(10:50〜12:30)

オンライン授業の見通し

秋学期の授業は9月21日(月)から始まり、年度末まで、このWEBサイトの教材をもって講義の代替とする。

毎回の講義内容は流動的だが、下記の日程表の【講義ノート】のリンクをクリックすると閲覧することができる。

掲示板ディスカッション授業は予想外に活発

春学期には「Oh-o! Meiji」の「ディスカッション」機能を使ってみたところ、ふだんの授業よりもずっと活発な議論ができたので、今後もこの方式で続けてみたい。

残念ながら、一年生の皆さんには想像が難しいかもしれないが、大学の大教室の講義というのは、大きな部屋に何百人も座って、教員が一方的に話し続けて、講義が終わった後も(試験のこと以外は)ほぼ誰も質問に来ない、というのがふつうである。

講義をする教員としても、毎週毎週、一方的に喋り続けていると、聞いているほうの学生諸君が、何を聞き、何を考えているのかわからないまま、という状況である。(しかし、期末試験を読むと、かなりよく書けている答案が多くて、後から、もっと対話をしたかった、と思うことが多々。)

受講者が千人のオーダーになると、全員zoomで議論というわけにもいかないのだが、じつは、文字だけのほうが、周囲の視線を気にせずに質問や意見が言えるという感想が多い。

それでも、千人のうち、活発な議論に乗ってくるのは十人ぐらいで、残りの九百九十人はどうか、というと、他の人が議論しているのを聞いているのが楽しかった、という、意外な感想も散見された。

毎週の授業の進めかた

参加方法は以下のとおり。

  • 事前に講義ノートを読み、教材ページを読んでおくこと。
  • 毎週月曜日の10時50分(のすこし前)に新たな「ディスカッション」を開始する。
    • 出席(参加すること)は必須ではない。
  • 12時30分まで、蛭川がパソコンを打ちながら、チャットのような形で、リアルタイムで教材の説明をしつつ、同時に質疑応答を受け付ける。
    • 12時30分には、蛭川は離席する。リアルタイムでの質疑応答は終わり。
  • ディスカッションは次週の月曜日の夜まで書き込み可能にしておく。
    • リアルタイムで参加しなかった受講生も内容には目を通しておくことをお薦めする。
  • 蛭川は、ディスカッションを「時々」チェックするので、なにかコメントがあれば、随時、回答する。
  • 受講生どうしの会話に使ってもいい。

(以下、毎週同じことの繰り返し)

授業についての質問

授業の内容や進めかたについて、質問があればOh-o Meijiのディスカッションに書き込んでもらえれば、随時、回答したい。

しかし、教材ページのURLをクリックしても指定されたページに飛ばない、パスワード要求画面が出てくる、等々、よくありそうな質問に対する答えは「蛭川担当授業FAQ」に上げておいたので、目を通しておいてほしい。

講義計画

講義は「ライブ」であり、必ずしもシラバスのとおりには進まない。この計画表は2019年度の授業をもとにして書かれているが、随時改訂していくので、こまめにチェックすることをお勧めする。

予定日 内容
09/21 人類学とは何か(全体の概観)
講義ノート
授業で扱う教材ページ
  →「人類学の科学史的位置づけ
09/28 人類の起源と進化
講義ノート
授業で扱う教材ページ
→「生物の系統分類と人間の位置
  →「サル目の系統分類
  →「人類の進化と大脳化
10/05 現生人類の拡散
講義ノート
授業で扱う教材ページ
→「遺伝子からみた人類の系統関係
  →「遺伝子からみた日本列島民の系統
→「人種・民族・文化
→「ウイルス進化論
10/12 遺伝子と文化
講義ノート
授業で扱う教材ページ
→「個人向け遺伝子解析
→「遺伝子からみた人類の系統関係
  →「遺伝子からみた日本列島民の系統
→「認知機能・パーソナリティの小進化
→「パーソナリティと遺伝子
10/19 講義ノートは10/12と同じ)
10/26 講義ノート
11/02 (大学祭休講)
11/09 性・婚姻・親族
講義ノート
11/16 講義ノート
11/23 (西太平洋へ)
講義ノート
11/30 生業と経済
講義ノート
12/07 象徴と世界観
講義ノート
12/14 講義ノート
12/21 世界観としての神話
講義ノート
12/28 (冬季休業)
01/04 (冬季休業)
01/11 (祝日)
01/18 文化を持つ動物としての人間(まとめ)
講義ノート
01/25 (教室での期末試験は行いません)
(→期末レポート課題

古いページなど一部のコンテンツには、はてなブログ独自の「なぞなぞ」パスワードがかかっているものがある。講義の中でも随時説明するが、詳細については、蛭川研究室ブログ新館のページ を参照のこと。



CE2020/04/30 JST 作成
CE2021/01/26 JST 最終更新
蛭川立

【講義ノート】「人類学A」2020/05/11

【お知らせ】

回線の渋滞は回復したようです。

(12時12分)

10時50分からはじめたオンラインディスカッションですが、回線が渋滞しており、なかなか繋がらない状態になっています。

いっせいにオンライン授業が始まったため、大学の回線に負荷がかかりすぎて、こちらもディスカッションのページにたどり着くのに5分ぐらいかかってしまいます。

f:id:hirukawalaboratory:20200511114120j:plain

今日は特別に遅いようですが、こんな画面は出てきますか?じつは明治大学のシステムも感染の疑い?でしょうか???

(11時42分)


この講義ノートは、あえて口語調で書いてみます。

授業もようやくオンライン上で開始という緊急事態になってしまいました。

今年度の全体的な教育研究計画については「西暦2020年度の研究・教育計画」に書きました。ざっと目を通しておいてください。

2003年の「旧型」コロナウイルス感染症

個人的な話ではあるのですが、いまから17年前、2003年4月、中国で少数民族の社会を調査中に、熱を出して倒れてしまったときの記録を、発掘して、整理しつづけています。

ちょうどSARS(いま流行中の「新型コロナウイルス感染症」の一世代前の「旧型コロナウイルス感染症」)が中国全土に急速に流行を拡大していたときで、自分もこの謎の病気で死ぬのかと、生死を彷徨うような悪夢にうなされ、けっきょく、三日ほどで回復し、社会的混乱をくぐり抜け、日本に戻ってきました。

あのときのことは、17年も前のことですし、だいぶ忘れかけていたのですが、いま、あの「旧型」コロナウイルスが、「新型」コロナウイルスとして復活し、ついに世界中に広がってしまった今、あらためてSARSのときのことを、何度も何度も思い出しつつ、いま起こっている出来事と結びつけ、重層的にとらえて考える必要があるという想いを新たにしています。

今回の授業資料

日々変化する状況の中で考えていることを「ウイルス感染症にかんする考察 ー生物学的次元と心理社会的次元ー」というページに、長々と書きつづけているのですが、話があちこちに拡散していてまとまりがありません。

しかし、人類学の授業も、まずはこのページからはじめていきます。

ウイルス感染症にかんする考察」のページは8個の節に分かれています。

ウイルス感染症との遭遇史

まずは「2003年4月、SARS流行下、四川省・雲南省における調査記録」に目を通してください。長い旅行記なので、ざっと斜め読みして、どんな状況だったかを知っておいてください。

SARSコロナウイルス感染症の生物学的側面と心理社会的側面

ここは、短い前提ですから、軽く読んでください。外部リンクもありません。

遺伝情報と進化

これは、生物学の話なので、基礎知識がないと理解が難しい内容ですが、なんとなく読んでもらえば結構です。

京大ウイルス研で実験助手をしていた頃のことなど」に、ウイルスの弱毒化について書かれていますが、これも人類学とはあまり関係ないのですが、ウイルス感染症を知る上では、弱毒化は重要な概念です。

ウイルス進化論」の、前半は専門的すぎますが、後半では、ある種のウイルスが人間のDNAに組み込まれていくという話をしています。また、これが日本人の起源を知る上でも役に立っているという研究の紹介です。

死の人称

雲南少数民族、ナシ族・モソ人は、死者の魂を、道案内しながら送り出すという特殊な葬送儀礼を行うのですが、調査記録がまとまっておらず、来週以降で扱う予定です。

食文化の象徴論

SARS関連コロナウイルスは、元を辿れば市場でコウモリなどの動物から人間へ感染したものであり、原因を知るためにはコウモリなどを食する文化について知る必要があります。

中国では、食用とされる珍獣類が不衛生な市場で取り引されており、そこに問題の発端があるのですが、たとえば日本でもハクビシンの同類であるマレージャコウネコの排泄物を喫茶店で飲用する文化があり、ひとつ間違えれば東京からコロナウイルス感染症が始まった可能性さえあります。そのことについては「【資料】『最高の人生の見つけ方』」を読んでください。

精神的不安の流行は身体的疾患の流行を追い越す

ここは、人類学の授業では、直接扱いません。

世帯と個人

中国の雲南省モソ人の社会には、夫婦に相当する男女が同じ家に住まないという文化があります。そのことについては、「走婚ー雲南省モソ人の別居通い婚」を読んでください。

2045年問題」の前哨としての「2020年問題」

当面は人類学とは関係のない話なのですが、情報社会の未来について、自分なりにまとめました。

まとめと展望

以上の内容だけでも多岐にわたるのですが、来週以降は、もうすこし具体的なテーマを扱っていきます。

拡散しすぎてしまった内容を、おおよそ、以下のような内容に収束させていきます。

  • 遺伝学と進化論の基礎(これは人類学Aと人類学Bの両方の基礎知識です)
  • 死生観と葬送儀礼(中国の雲南省のナシ族・モソ人の葬送儀礼から話をつなげます)
  • 性と婚姻(中国の雲南省モソ人の親族構造から話をつなげます。人類学Aと人類学Bにまたがる分野です)
  • 向精神薬の文化(アルコールの話を深めていきます)


→春学期全体の講義計画「人類学A 2020年度」に戻る



CE2020/04/24 JST 作成
CE2020/05/11 JST 最終更新
蛭川立

人類学A 西暦2020年度

蛭川担当の人類学Aの講義は、内容としては、昨年度以前からWeb上にアップしてきたコンテンツと変わるところはないが、スケジュールや講義形式は流動的で、このページも何度も加筆修正を続けていて、やや混乱しているが、わかりやすく整理する作業を続けている。

春学期 月曜日 2限 (10:50〜12:50)

オンライン授業の見通し

今年度の授業は5月11日(金)から始まり、春学期いっぱい、つまりすべての授業はは教室には集まらず、このWEBサイトの教材をもって講義の代替とすることとなった。

毎回の講義内容は流動的だが、下記の日程表の【講義ノート】のリンクをクリックすると閲覧することができる。

授業時間のディスカッション

Oh-o! Meiji」の「ディスカッション」機能を使ってみたところ、ふだんの授業よりもずっと活発な議論ができたので、今後もこの方式で続けてみたい。

方法は以下のとおり。

  • 毎週月曜日の10時50分(のすこし前)に新たな「ディスカッション」を開始する。
    • 出席(参加すること)は必須ではない。
  • 12時30分まで、蛭川がパソコンを打ちながら、チャットのような形で、リアルタイムで教材の説明をしつつ、同時に質疑応答を受け付ける。
    • 12時30分には、蛭川は離席する。リアルタイムでの質疑応答は終わり。
  • ディスカッションは次週の月曜日の夜まで書き込み可能にしておく。
    • リアルタイムで参加しなかった受講生も内容には目を通しておくことをお薦めする。
  • 蛭川は、ディスカッションを「時々」チェックするので、なにかコメントがあれば、随時、回答する。
  • 受講生どうしの会話に使ってもいい。

(以下同様)

当面は、以上のようなスケジュールで進めてみる予定。

授業についての質問

授業の内容や進めかたについて、質問があればOh-o Meijiのディスカッションに書き込んでもらえれば、回答するが、授業の進めかたについては、「パスワード要求画面が出てきました」等々、よくありそうな質問に対する答えを「蛭川担当授業FAQ」に上げておいたので、目を通しておいてほしい。

2020年度の計画

講義日程

04/06 (準備期間)
04/13 (授業休止)
04/20 (授業休止)
04/27 (授業休止)
05/04 (授業休止)
05/11 初回特別講義
講義ノート
05/18 人類学とは何か
講義ノート
人類学の科学史的位置づけ
05/25 講義ノート
06/01 講義ノート
06/08 講義ノート
06/15 講義ノート
06/22 講義ノート
06/29 講義ノート
07/06 講義ノート
07/13 講義ノート
07/20 講義ノート
07/27 講義ノート

(以下のスケジュールは再調整中です。勉強する内容は以下のとおりですが、日程は入れ替えながら進めています。)

人類の進化と脳の進化
生物の系統分類と人間の位置
サル目(霊長類)の系統分類
人類の進化と大脳化
06/01 脳の構造と機能
神経系の階層構造
ヒトの脳の構造
脳の系統発生と個体発生
認知機能・パーソナリティの小進化
06/08 物質文化と精神文化
化石人類の物質文化と精神文化
06/15 意識・無意識・象徴
集合的無意識と共時性
06/22 精神文化と神経科
縄文文化の超自然観
中南米先住民文化と精神展開性植物
アマゾン先住民シピボのシャーマニズム
中米先住民文化と精神展開性植物
06/29 向精神薬の人類学と生理学
勤勉と強迫の文化
興奮するモダン/沈静するポストモダン
中米先住民文化における飲食物の民俗分類
神経細胞と神経伝達物質
向精神薬の民俗分類
07/06 〈狂気〉と〈聖性〉
オーストラリア先住民美術と現代美術
精神疾患の大まかな見取り図
精神疾患と創造性
07/13 沖縄のシャーマニズム文化
沖縄の民間信仰をめぐる権力構造
沖縄シャーマンの巫病は『精神病』か?
  シャーマニズムと精神医療の近現代史
07/20 神話・元型・構造
アマゾン先住民の起源神話
  『古事記』の構造分析
07/27 霊魂観と瞑想の文化
インド文化における輪廻と解脱
ヨーガと瞑想
タイの瞑想文化
08/03 (定期試験)

参考図書

蛭川立 (2002).『彼岸の時間ー〈意識〉の人類学』春秋社

公式シラバスの授業進行予定

第1回:未開と文明の狭間(全体の展望)
第2回:脳の構造と機能
第3回:神経系と脳の進化
第4回:遺伝子と神経伝達物質
第5回:遺伝子と文化の共進化
第6回:シャーマニズムの神経薬理学(中南米先住民)
第7回:向精神薬の民族科学(インド,太平洋諸島)
第8回:「正常」と「異常」(沖縄・古代日本,モンゴル)
第9回:精神疾患神経科学的研究
第10回:民族芸術の深層心理学縄文文化・アマゾン先住民)
第11回:神話の論理(日本,太平洋諸島,南米先住民)
第12回:大脳化と他界観の起源(化石人類,インド,チベット雲南
第13回:瞑想の文化と生理心理学(インド・タイ)
第14回:文化相対主義と意識状態相対主義(全体のまとめ)



CE2020/03/26 JST 作成
CE2020/07/26 JST 最終更新
蛭川立