【講義ノート】「不思議現象の心理学」2020/05/15

【お知らせ】蛭川はここ数日、体調を崩し、教材の整備が遅延し、作業が混乱していました。しかし、昨日、無事に快復しました。原因ははっきりしませんが、ご理解のほどをお願いいたします。(5月15日)

臨死体験の話から、不思議現象という本題に入っていこうと考えてはいたのですが、否応なく同時代的な状況に巻き込まれてしまいます。今日もまた正体不明の発熱の話からお聞きください。

科学リテラシー」や「リスクコミュニケション」の問題でもあります。



病気の流行が不安を流行させてしまいます。

著名人が「コロナ」に感染しただけで、ニュースになったり、それで死亡すれば、もっと大きなニュースになります。そのうちに、自分の身の回りの人も、自分じしんも、同じ病気に感染してしまうのではないかと、だんだんに気になってきます。

ちょっと咳が出たりしただけで、大丈夫かな、と思って体温を測ってみたり。ふだんは、そんなことで体温など測らないのに、測ってしまうと、微熱だったりする。やはり感染したか、と思ってしまい、また体温を測ってしまう。これが「確証バイアス」という「認知バイアス」なのです。(→「抗原と抗体とPCRと」)。

じっさいに周囲を見回したとき、日本と区切れば感染者は、症状が出ていない人も含めて、およそ一万人です(→「感染予測シミュレーションによる検討」。一億人の人口のうち、一万人に一人の割合です。

これぐらいの人数だから、人口数万人規模の村落社会では、逆に問題になるのかもしれません。しかし匿名性が高く人口密度が高い都市の場合、周囲にいる人の一万人に一人が感染しているといわれても、ピンと来ません。目の前にいる人が感染している確率は、一万分の一です。

そういう数字を聞いても納得が行かないと、検査が進んでいないだけで、本当は感染者は発表されている数の十倍も百倍もいるのではないか、と、また心配になってしまうものです。

もう流行は終息に向かっているではないかという数字を見ても、外出自粛を緩めれば再流行が起こるとか、第二波がやってくるのだとか、不安なことを考えはじめると、きりがありません。

現状や将来に問題を見出し。それを改善していこうと考えるのは良いことですが、そのためには、現状の正確な分析が必要になります。

たとえば、著名人がインフルエンザに感染しても、ニュースにはなりません。たとえインフルエンザで死亡したとしても、インフルエンザで死亡したこと自体はニュースにはなりません。

それでは「新型コロナウイルス感染症」は「インフルエンザ」よりも、ずっと危険な病気なのでしょうか。それは、どれぐらい症状が重くなるか、どれぐらい感染するか、人口の何割ぐらいが感染するか、といった多方面からの比較が必要です。

たとえば、日本だけでも総計上は毎年137万人が死んでいます。大多数は高齢者です。老衰死は11万人です。その数をどう評価するかです。(→「日本における出生数、死亡数とその原因」。たとえば、ある病気による死者数は、こうした数と比較して検討しなければ意味がありません。

しかし、病気として危険かどうかは別にしても、未知の現象は、じっさいよりも、より危険なものとして認識されてしまいます。(→「友野典男行動経済学』」。


臨死体験のことはさておき、祈祷による病気治療は昔から行われています。たとえば平安時代真言密教が国教のようになったときには、空海が唐から持ち帰った三密加持(身体・呼吸・意識についての秘密のコントロール法)によって疫病退散ができるとされていました。

雲南モソ人の祭司による疫病退散の読経」に、中国の少数民族の祭司による病気平癒の読経について書きました。雲南省の北部の山岳地帯は、チベット密教の文化圏と連続しています。

もし祈祷による治療が効いたとして、ひとつの仮説は、祈りが本当に物理的・生理的な作用を及ぼすということであり、その可能性は「不思議現象」として研究する必要があります。はじめから「ありえない」と決めつけるのは、論理的な思考ではありません。

また同時に「プラセボ効果と象徴的効果」についても知っておく必要があります。

プラセボは、信じれば効くし、信じなければ効かないというものです。ダパの読経の後、私がお腹を下したのは、ダパの祈りが弱かったのか、あるいは彼を頼りない人物として信頼していなかったからかもしれません。

いったん体調が悪くなるのは「好転反応」であって、治療の初期段階で「毒素」が体外に排出されたのだ、という説明はできますが、それは事後的(ポスト・ホックな)「言い訳」になってしまいます。

漢民族の社会で(あまり美味しいとは思えない)コウモリがやセンザンコウがが食されているのは、美味と言うよりはむしろ貴重な漢方薬といった意味合いが強いようです。

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なぜ中国人は何でも食べる?」『中国国際放送局』(→動画
 
すべての中国人(漢民族)が何でも食べるわけではない。いまだに奇妙な迷信を信じている人がいて、SARSから教訓をくみ取ることができなかった

日本でも男性的精力のつく動物として、たとえばスッポンやマムシが食されてきました。成分として亜鉛などのミネラルが含まれているというのも、ある程度は事実のようですが、その形態や生態が男性的な力を「象徴」しているという理由も大きいといえましょう。

ただし、人畜共通感染症にかぎっていえば、「ゲテモノ」を食べること自体は問題ではありません。(上の動画でも混同がありますが、野生動物を保護することと、感染症の問題は別です。)生きたままの動物から出る唾液や排泄物の中には病原体が含まれていますが、よく熱を加えて調理すれば問題はありません。(食文化の相対性については「食べてよいものと食べてはいけないもの」で議論しています。)

ハクビシンと同じジャコウネコ科のジャコウネコの糞からつくられる、ジャコウネココーヒーのことは前にもすこし触れたかもしれません。(→「『最高の人生の見つけ方』」)日本でも、感染症を引き起こしかねない状態で変わった動物が食用にされています。中国で起こったことは、けっして対岸の火事ではありません。ジャコウネコからはSARS関連コロナウイルスが検出されています。

東京の喫茶店謎の肺炎が発生し、ついには世界を恐怖と混乱に巻き込む、ということさえ、起こりうるのです。

本日の要点

読んで参考になるかもしれない記事

抗原と抗体とPCRと
「『最高の人生の見つけ方』」

→講義全体の日程「不思議現象の心理学 2020年度



CE2020/05/08 JST 作成
CE2020/05/15 JST 最終更新
蛭川立