【講義ノート】「人類学B」2020/10/12+19

先週、10月12日は開店休業のようになってしまい、申しわけありませんでした。昨年度までですと、学会で発表したり会議で議論したりと、そちらのほうを優先せざるをえない場合は、休講ということで、講義をお休みにしていたのですが、リアルタイム掲示板なら、ノートPCが手元にあり、電波さえつながれば、同時並行でできるかと思ったのですが、ちょっと無理でした。今年度の授業は試行錯誤ですが、ちょっと読みが甘かったようです。恐縮です。

さて、今週、10月19日の授業ですが、もういちど、同じ内容を繰り返します。それは、先週、議論ができなかったからでもありますが、かなり広大な分野を扱っているので、むしろ2週間かけて議論する必要がある内容だとも考えるからです。また、遺伝子がパーソナリティを規定する、などということを、サラリと言っていますが、分子遺伝学や脳神経科学の基礎知識があって理解できるものですが、生物学を専門としない大学の、1〜2年生のみなさんには、まずその基本から説明する必要があるかなということで、すこし説明を補充しました。

個人向け遺伝子解析

今週のテーマは「個人向け遺伝子解析」です。唾液を検査会社に送ると、DNAの遺伝情報を読み取ってくれるというサービスです。相場は、1〜2万円です。

私が試したものですが、主なサービスとしては

などがあります。

主な目的は、自分がどんな病気に罹りやすいかということを知ることです。一種の健康診断です。

私がやってみたところでは、喉頭がんにかかる確率が、平均より1.2倍高い、と出てきました。ガンになるのも、遺伝的な要因と、環境の両方があります。しかし、たくさんの要因が交絡しているので、遺伝子検査でわかるのは、せいぜい「罹患するリスクが1.2倍高い」というぐらいです。

遺伝的健康診断

ガンになる確率が高いということがわかってどうするのか、なのですが、たとえば、喉頭がんにかかりやすい人は、喫煙を控えましょう、といった生活習慣指導もついてきますから、多少は参考になります。

(本当に命にかかわるような重病が確実に発病しやすい場合は、逆に教えてくれません。)

自分のルーツを探る

また、自分の遺伝子を調べることで、自分の祖先がどこから来たのかを知ることができます。

アフリカで誕生した現生人類が日本列島までやってきたのは、多数のルートだということがわかっています(→「遺伝子からみた日本列島民の系統」)。自分の祖先が、どのルートを辿ってきたのかを知ることができます。

自分の性格を知る

人間の認知機能、簡単にいえば頭の良さやパーソナリティ、簡単にいえば性格には個人差があるが、その要因は、遺伝と環境が、おおよそ半々か、それ以上であり、遺伝率は意外に高いということが知られています「パーソナリティと遺伝子」、「認知機能・パーソナリティの小進化」を参照。

個人向け遺伝子解析でも、あなたの性格は?あなたの音楽的才能は?といった分析をしてくれるサービスもあります。

もっとも、知能や性格に遺伝的な部分が多いとしても、たくさんの遺伝子がかかわっているため、どの遺伝子が脳のどの機能とかかわっているのかは、まだわからないことだらけで、あなたはこういう遺伝子を持っているから、こういう性格です、といった分析結果が出てきたとしても、血液型性格占いと同じぐらいのものだというのが実情です。しかし、将来研究が進めば、もっと詳しいことがわかってくるかもしれません。

(昨年度までの講義では、教室のPCから自分の分析結果のページにログインして結果をお目にかけていたのですが、今年はそれができません。一例として「GeneLife」で、クロニンジャーのTCIの「自己超越性」について「検査」した結果をこちらにアップしておきました。)

以上ですが、詳しいことは「個人向け遺伝子解析」のページに詳細に書きましたので、ごらんください。

来週以降の予定

来週以降の授業は、遺伝、生殖という自然人類学的なテーマから、婚姻、親族、社会といった、文化人類学社会人類学的なテーマへと移行していきます。

春学期の人類学Aの授業を受講した皆さんには、2003年に中国で調査中にSARS騒動に巻き込まれてしまったことを何度もお話しましたが、かんじんの調査の内容については、きちんと整理してお話しませんでした。たとえば、「走婚ー雲南モソ人の別居通い婚」などのページがありますが、当時の体験談と研究資料が混ざったままで整理できていません。整理できないところが現地調査のリアリティでもあるのですが。

来年度問題分析ゼミについて

西暦2021年度向け問題分析ゼミナール紹介動画が公開されました。



記述の自己評価 ★★★☆☆
CE 2020/10/11 JST 作成
CE 2020/10/19 JST 最終更新
蛭川立