【講義ノート】人類学A 2020/06/01

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人類学Aですが、コロナウイルス感染症の話題から本題につなげていくという方式にしたので、シラバスの予定とはスケジュールがだいぶ変わっています。しかし、順序が変わるだけで、授業の内容全体は変えないように計画しています。

大学に入ったはずなのに大学には入れない一年生の皆さんには教室での講義がお届けできなくて残念です。ふだんなら口でしゃべっていることを文字にするのもなかなか大変です。余談や冗談も、文章にはしづらいものです。

ふだんの講義なら、以下のような調子になります。

今のウイルスなんてそんなに怖くないですよ、17年前のSARS(サーズ)、今のが新型だとすると、まあ旧型コロナウイルスですかね、中国では非典(フィーティエン)と言ってましたけど、中国語の発音おかしいですか。どうしても声調というのがわからないんですね、非典型肺炎のことです。17年も前ですよ、皆さんまだ生まれていたかいないかですね、あれはもっと強力でしたよ、熱が38度以上ないと発病したと見なされないんですが、中国と香港以外にはあまり広がらなかった。感染力が弱かったからでもあります。日本には来なかったことになっています。ひょっとしたら、私が日本に持ち込んだ第一号かもしれませんけどね、これは抗体検査をしてもらわないとわからないので、早く検査をしてもらいたいんですね。自分は曾て支那の山中で最前線で倒れ、九死に一生を得て引き揚げてきたのだ、向こうで緊急状態宣言だと、中国語では緊急状態と言いますね、戒厳という、もともとは戦争や内乱のときに行われていた、日本語ではなんと言うんでしょう、英語はステイト、オヴ、エマージェンシイ、それを自然災害や伝染病にも適用できるようにした、これが中華人民共和国の緊急状態という状態ですね、そういう状態では、もう本気で軍や警察と対峙しなくちゃいけない、でもそれは社会の秩序を維持するためなんですけどね、みんなパニックになって、わーっとなるわけですが、わーっとなっている群衆を、制服を着た人たちがね、それを統制する、ある程度の人権を侵害したとしても、社会の秩序を守ることが優先される。いまの日本の緊急事態とやらとは大違いだ、などと、また昔の武勇伝を話しはじめると、それもう何回も聞かされたよ、そう思っているかもしれません。何度も昔話ばかり繰り返すようになったら、脳が老化してきたんでしょうね、しかし、過去の教訓を若い人に伝えて行くのも仕事だと思うんですよ。最近ネイチャーっていう、イギリスの科学雑誌に発表されたんですけどね、旧型コロナウイルスに罹って回復した人はもう抗体を持っていて、その抗体を使ってワクチンが作れるかもしれないそうです。それなら皆さん、教室で講義をして私と濃厚接触すれば抗体が身につくかというと、それは無理です。抗原であるウイルスは唾液やら何やらで感染しますが、抗体は輸血でもしないかぎり他人には伝わりませんからね。しかし旧型コロナウイルスに比べればいまの新型コロナウイルスは進化しています。感染力が強くて症状は軽い、若くて元気な人だと感染してもほとんど症状が出ない。だから怖いのではなくて、だから怖くないんです。これがウイルスの進化です。ウイルスは宿主(しゅくしゅ)に寄生して生きるので、宿主が死ぬと自分も生きられないんですね。みなさんは若いから、たぶん感染してもほとんどは大丈夫でしょうけど、いや保証はできませんけどね、それでも大学に来ないほうがいいのは、知らないうちに感染していて、自分がウイルスの運び屋になって、老人や病人にうつしてはいけないと、だから気をつける必要があるわけです。マスクをするのも他人に感染させないためですね、だいたいは。しかしウイルスにしてみれば、うっかり老人や病人に感染してしまって殺してしまうのは、これはウイルスにとっては誤算で、宿主が死ぬと自分も死にますからね、そういう失敗をするウイルスは子孫を残せず、生き残れない。しかし集団全体からみれば老人や病人はいずれ他の理由でも死にますからね、とか、ブラジルの大統領がそういう暴言を吐いて問題になったようですが(←こんな黒冗句はふだんは喋っていても、文字には書きにくいのです)最終的には全員に感染して全員が症状が出ないというところで収束する、寄生から共生になって安定するわけです。ウイルスと戦って、全滅させて、終息させる、こちらのシュウソクは、終わる息という漢字ですけど、戦って打ち負かすのではなくて、共生へと収束する。このシュウソクというのは、これは数学用語ですが、ある一定の値で落ち着いていく、お互いにお互いを支え合いながら、安定した状態で安定する、これが生態系のバランスです。難しい言葉ではホメオスタシスといいます。高校で生物を勉強した人は聞いたことがあるかもしれませんね。ウイルスにとってもそれが理想なのです。これをウイルスの弱毒化といいます。弱毒、毒が弱まるという意味です。詳しいことは、ここからリンクを張っているこのページですね「ウイルスの弱毒化と共進化【興味があれば読んでみてください】」、このページに書いたので、興味がある人は読んでみてください。ウイルスによっては人間の遺伝子とともに何万年も何億年もずっといっしょに進化してきたものもあるわけです。そもそも人間の持っている遺伝子の半分以上がウイルスだと、そういうことも最近になってわかってきました。たとえば白血病を引き起こすウイルスですね、いや、ごくたまに白血病を起こすけれどもほとんど無害なウイルスが人類発祥の地であるアフリカと、そして日本に多いという話があります。これは、この「ウイルス進化論【興味があれば読んでみてください】」ページに書きましたけど、こういう研究が、日本人のルーツを探る研究ともつながってくるわけです。よく人から、どんな研究をしていますかと聞かれて、人類学ですというと、ええと、人類学っていうのは、人類の研究ですか、と聞かれて、困ってしまうんですけど、たしかに高校までの教科にないですよね、人類学。歴史学とか地理学とか生物学とか、想像ができますけど、人類学とはなにか、それをこの授業でお話しているわけです。たまに、人類学というのは、日本人のルーツを探るとか、そういう研究ですか、と言われることもありますね。日本人はどこから来たんですか、とか聞かれるんですけど、それも人類学の研究分野ですね。まあそう聞かれたら、どこを経由してきたのかは諸説ありますが、ようするに日本人はアフリカから来たと答えることにしています。世界中の人類は、ホモ・サピエンス、という学名で、ぜんぶ同じ種(しゅ)です、生物学でいうところの種、スピシーズですね。いろんな民族がいて、差別したり戦争したりもしているのですけど、そうは言っても全員が同じホモ・サピエンスなんですね、全員がアフリカから来たわけです。だから人類はみな兄弟姉妹だというわけです。云々。

口頭で話せば五分ぐらいで終わるものを、そのまま文字にすると、非常に異常な感じがします。

文字に書いていたらきりがないので、自分でしゃべったものを録音してみようか、とも思ってはいるのですが、誰もいないところでマイクに向かって一人でしゃべろうとすると、これまた非常に不自然な感じがしてきて、ぎこちなくなってしまって、うまくしゃべれません。

じつは、人間にとって文字とはとても不自然なものなのです。「化石人類の物質文化と精神文化【来週以降の講義の資料です(図表が表示されないかもしれませんが、復旧作業中です)】」という記事に書きましたが、人類の祖先が言葉を話しはじめたのは数十万年前です。言語といっても音声言語です。音声言語の長い歴史に比べると、文字の発明はたかだか数千年前です。それも長い間、一部のエリート男性しか使えなかったわけです。昔の中国の漢字がそうですね。はじめは天下国家の行く末を占う、占いの記録として、甲骨文字からはじまって、長い間役人が書類を書くために使っていた記号なんですね。中国から漢字を借用した日本もそうでした。今の日本のようにほぼ全員文字が使えるようになったのは、これは明治以降の教育制度の普及ですね。日本語というのがまた最高に難しいんですね。留学生の皆さんは日本語を勉強するのが本当に大変だったと思います。文字が、漢字があって、これは中国から借りてきたもので、しかも輸入した地域や時代が違うから読み方も違う、そして日本独自の仮名があるわけですが、これがさらにひらがなとカタカナの二種類があります。漢字だけでも何千文字あるかわかりません。それで中華人民共和国では皆が漢字を使えるようにと、簡体字、簡単な漢字を開発したわけです。韓国朝鮮はどうかというと、漢字は一部のエリートが使うもので、ふつうの人はハングルという文字を発明して、これだけでやろうということになったんですね。ハングルというのは中国ではなくて古代のインドの文字をモデルにして作られた合理的な文字のシステムで、たぶん世界でいちばん合理的な表音文字の体系だと思います。それでも、いまでも海外では、国や地域によっては、とくに女性が、じゅうぶんな教育を受けられなくて読み書きができないところもあります。大学だって日本は戦前までは女性は入れませんでした。明治の女子短大は先駆的だったわけです。それが発展して情コミ学部になったわけです。これも16年前のことですけど、そういう女子教育の伝統があるから、情コミは、ジェンダー的に、学生数の男女比が、毎年ほぼ半々なんです。入試の合格者を出すときに調整なんかしていません。自然にそうなっているんです。すごいですね。いま教室を見回してみると、男子と女子がほぼ半々いるわけですが、それが文字だけだとわからないですね。男女というのは、これは男性優先の性差別的表現ですかね、でも逆に雌雄という言葉もありますよね。そういうふうに、ふだん当たり前のこと、当たり前に使っている言葉の意味なんかを分析していくのが、また人類学の面白さですね。また話が脱線してしまいました、すみません、話を戻しましょう。さて今日の講義ですが、云々。



前回は、食物や薬物の象徴的分類についての講義でした。ここから、とくに神経系に作用する向精神薬の話に入っていきます。併せて、脳の働きやその進化についての基礎知識も勉強していきましょう。

そのあとは、精神展開薬と変性意識状態の文化について概観するという展開にします。中国の雲南省少数民族などの葬送儀礼のことも、話が途中になっていましたが、後日また詳しくお話します。

今後のオンライン授業の順序としては、「麻薬」や「ドラッグ」と十把一絡げにされている向精神薬について、ひととおりの分類ができるようになってから(→「向精神薬の分類」【このページはぜひ読んでください】「向精神薬の呼称」【このページもぜひ読んで正しい用語を学んでください】)、精神展開薬が使用されている文化(→「中米先住民文化と精神展開性植物(画像が表示されないという不具合が報告されていますが、現在復旧作業中です)」「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」「南島の茶道 ーカヴァの伝統と現在ー」【以上の3ページだけで3週間ぶんの授業資料になります。6月1日の時点では必須ではありませんが、余裕があれば読んでください。来週にはアマゾンか中米の話はできます】)を見ていきます。

向精神薬だとか精神展開薬などの難しい用語も出てきましたが、その意味については、脳や神経細胞の機能と進化とも併せて授業の中で解説していきます。



なにか質問があれば聞いてください。コメントがあれば、どうぞ。

ふだんの授業だと、こう、大教室にたくさんの聞き手が並んでいて、質問はありますか、と聞いても、シーンとして、誰も手を上げない。それが今年度から文字のディスカッションにしたら、急に発言が増えてきて、これは非常に興味深い現象ですが、とくに一年生の皆さん、こんなに面白いことは秋学期にはもうなくなるかもしれません、いや、きっとなくならないですよ、この緊急事態をきっかけにして、社会の、コミュニケーションのありかたが、大きく変わると思います。

いつも言っていることですけど、私は敢えてポジティヴで前向きなことを言いたいのですけど、というのは、日本の政治家も、ほかの人たちも、あまり明るく前向きなことを言わない。たしかに、いまは苦しいことも多いでしょうけど、もちろんそれは厳しい現実です。しかし、これを乗り越えれば、うまく乗り越えれば、きっと豊かな未来が開けていくはずです。困難を乗り越えて、そして今までの生活を取り戻そうと、それだけではなく、社会の混乱を逆手にとって、ピンチをチャンスに、混乱というと悪い言葉ですが、それは社会やコミュニケーションの自由度が上がることです。でも楽観的ということと楽天的ということは違うんですよ。何も考えずに楽しくしているだけでは、社会はもっと混乱していくでしょうけど、それは工夫次第で、きちんと前向きに考えて状況を把握して、混乱を自由な豊かさに変えていければ、これは予想もしなかったような未来が展開していきます。そして、未来を担うのは、これから社会を創っていく皆さんです。私のように昔話ばかりする老兵は去っていきます。皆さんが一生懸命働いて、それで年金生活をさせてもらいます。期待しています。できなかった入学式の祝辞みたいになってしまいましたが、今日の授業はこれで終わりにします。ご静聴ありがとうございました。



CE 2020/05/26 JST 作成
CE 2020/06/01 JST 最終更新
蛭川立