【講義ノート】「身体と意識」2020/01/10

前回の続き

宗教的世界観、哲学的世界観、科学的世界観という順に思想史を追っているうちに(→「インド・ヨーロッパにおける心物問題の思想史」)年を越してしまった。近年の脳神経科学の進歩により、たとえば臨死体験のような神秘体験も、脳内の神経伝達物質の挙動によって説明できるようになってきている。

いっぽう、20世紀以降の現代物理学の世界観においては、物質の実在性以前に、観測という行為が問題とされるようになった。そこで「月は見ていないときには存在するのか」といった形而上的な問題がふたたび問い直されるようになってきた。

近未来情報社会へ

最後に、講義の中でも繰り返し指摘してきたことだが、通常の覚醒状態で生きる「現実」とは異なる「現実」に生きる可能性は、過去に宗教的世界観が支配的だった時代よりも、むしろ今後の仮想現実技術の発展によって、より切実な問題となるであろうこと(→「仮想現実と心物問題」)を、予告しておきたい。

全体のまとめ

この授業では、いわゆる変性意識状態を中心とした、意識の諸状態と、その生物学的メカニズム、あるいはその宗教的・哲学的な解釈について概観した。

変性意識状態の諸相については、「意識の諸状態」に、その「地図」を列挙している。

期末試験

成績評価は期末試験の成績のみによって評価するが、試験問題は事前にアップしておいたので見ておくこと。

なお、過去にも同様の試験問題を課しているが、解答の中に「電波に乗って悪口が聞こえてくる」といった、精神病の症状のような訴えが見受けられる。そうした体験については、試験に解答するというよりは、学生相談室や医療機関に相談することをお勧めする。

もちろん、変性意識体験には不快な体験も心地よい体験もある。不快なことであっても、そのこと自体がただちに狭義の精神疾患の症状だとはいえない、ということも付記しておきたい。たとえば夢にも悪夢があるし、入眠期の夢は睡眠麻痺(金縛り)という不快な体験になることが多いが、ときには臨死体験のように素晴らしい体験となることもあることが報告されている。

2020/01/09 JST 作成
2020/01/10 JST 最終更新
蛭川立