【講義ノート】「身体と意識」2020/10/08

異なる意識の状態に対応して、異なる現実が体験される、ということで、いちばんわかりやすい例として、睡眠中の夢をとりあげました。

人生90年なら30年は睡眠

この授業では、夢分析や夢占いなどについては、とりあげません。心理療法、カウンセリングなどでは、夢の内容を分析することもあります。とくに、精神分析という精神療法の流派では、そういう方法を用います。子どものころの夢、とくに両親との関係が夢に出てくる場合には、それを分析することで、心の問題が解決することがありえますが、現在では、精神分析など、夢には重要な意味があるという考えには疑問が多いとされています。夢の内容の多くは無意味だという説が有力です。(ただし、夢の内容だけでなく、経験したことをセラピストや医師と話し合うこと自体で悩みが解決したりすることはあります。)

かりに夢の内容が無意味だからといって、夢を見ることが無意味だというわけでもありません。悪夢ならともかく、楽しい夢は楽しめばいいわけです。

人生の三分の一は睡眠です。一生を90年とすると、じつに30年を睡眠状態ですごすわけです。そのうちのかなりの部分を、夢の世界ですごします。起きている世界を楽しむように、夢の世界も楽しめばよいわけです。

夢分析や夢占いは、夢の内容を分析して、目覚めているときに生活をより快適にしよう、と考えますが、夢の内容自体を快適にしようという発想ではありません。

明晰夢

夢の中で「これは夢だ」と気づくことがあります。これを「明晰夢」といいます(→「明晰夢」)。明晰夢にも二段階あって、夢の中で「これは夢だ」と気づく段階、さらに、夢の内容を自分の意志で変えてしまえるという段階があります。

夢の内容を自分で変えてしまうことができれば、夢の世界を自由に楽しめます。現実の生活というものは、なかなか思うようにはならないこともありますが、夢は夢なので、やろうと思えば、かなり簡単に内容を変えられます。

明晰夢については、個人差があります。おそらく、百人に一人ぐらいは、毎日の夢が明晰夢で、それが当たり前だという人がいます。私の授業などを聞いて、99%の人が自分とは違うのか、と思って驚く人がいます。

明晰夢を一度でも見たことがある人は、大学生の話を聞くかぎりは、80%ぐらいです。

練習をすれば、明晰夢を見られるようになるといわれています。いろいろな方法があるようですが、けっきょくは、明晰夢を見ようという意志が大事であるようです。

入眠時幻覚と体外離脱体験

夢の変種としては、入眠時幻覚があります。俗に金縛りというものです。

ふつう、睡眠は、ノンレム睡眠、つまり夢を見ない眠りから始まり、レム睡眠、夢を見る眠りから覚めます。

しかし、体質や状況によっては、レム睡眠から眠りに入るときがあります。たとえば、体がとても疲れていて、意識が覚醒したまま、体のほうが先に眠ってしまう場合などです。これを、入眠期の夢とか、入眠時幻覚といいます。

意識ははっきりしているのに、身体だけが動かないので、体の上に誰かが乗っているような重みを感じることもあります。こういう場合を、睡眠麻痺といいます。

以上の内容の詳しいことは「入眠時幻覚と睡眠麻痺」を読んでください。

意識と体がずれてしまったり、意識と体が分離してしまうような感覚になることもあります。完全に分離してしまったような感覚を、体外離脱体験といいます。俗に幽体離脱ともいいます(→「明晰夢と体外離脱体験」)。

臨死体験

体外離脱体験がよく体験されるのは、臨死体験のときです。臨死体験というのは、死に瀕したときに、お花畑に行って死んだ祖父母に会う、という体験です。それに先立って、体外離脱体験が起こることが多いのですが、臨死体験を、文字どおり、肉体が死んだときに魂が抜けて、あの世に行く、ととらえると、意識が身体を離れるのは当然のことです。

しかし、それは否定も肯定もできません。

私たちは、死の淵から生還した人から、臨死体験の体験談を聞くことができますが、それは、生還したからであって、本当に死んでしまった人からは、死んでいくときの体験を聞くことはできません。

誰もが、最後は死んでいくという体験をするでしょうから、そのときには、臨死体験者が語るような体験をするかもしれないし、しないかもしれません。(なお、いままで何万人もの研究が行われてきましたが、臨死体験者のほぼ全員が、天国、極楽のような世界に行ってきたといいます。しかし自殺未遂者だけは、地獄のような体験をしたという人の割合が多いのです。なぜなのかはわかりませんが、あるていど長生きしてから、老衰か、あまり苦しまない病気で逝きたいものですね。)

臨死体験の話をしていると、これは非常に興味深いテーマなので、長くなってしまいます。続きは来週にします。こんな話を長々としても、一部の特殊な人しか興味がないことかなと思っていたのですが、最近、この授業の履修者が増えてきて、情コミ学部だけでも8割ぐらいの人が受講しているようで、しかも、レポートで、授業で扱ったような体験で、自分で体験したことを分析してください、という課題を出すと、かなりの人数の人が、自分の臨死体験について書いてくれるのに、とても驚いています。一般人口の臨死体験経験者は、50人に一人ぐらいだといわれていますが、二十歳ぐらいの年齢でも、100人に一人ぐらいはいるようです。家族や友人など、身近な人が体験をしている確率は、10分のⅠ以上でしょう。けっして特殊な問題ではないことがわかります。

大学生ぐらいの年齢で、事故や病気など、とても大変な思いをした人が多いのですね。もちろん、その多くは助かって、後遺症もないわけですが、助かった人だけが生き延びて、この授業を履修しているのでしょうが、さて、続きはまた来週にします。



記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2020/10/08 JST 作成
蛭川立