【講義ノート】「身体と意識」2020/10/02

身体と意識、二回目の講義ノートです。

初回では、人間の意識は複数の意識状態をとりうる、それぞれの意識状態に対応して、それぞれ異なるリアリティが体験される、などとお話しましたが、何のことやら、かもしれません。

いちばんわかりやすいのは、睡眠中に見る夢です。まずは、睡眠と夢の生理学的なところから勉強していきましょう。

ヒトは昼行性動物ですから、昼間に起きていて、夜は眠ります。夜に寝ているときに、夢を見ます。寝ている間にも、だいたい90分のサイクルでレム睡眠が繰り返され、一回の睡眠で何回も夢を見ます。詳しくは「睡眠と覚醒のリズム」【必ず読んでください】をごらんください。

他の動物が意識といえる経験を持っているのかどうかは、よくわかりませんが、睡眠と覚醒を繰り返し、しかも、夢を見るのは、哺乳類と鳥類です。動物の種類によってもずいぶんと睡眠時間は違います。何のために夢を見るのか、その意味についてはすべてが解明されているわけではありませんが、乳幼児はレム睡眠が長く、加齢とともに徐々に減っていくことからして、外部からの情報を長期記憶として固定し、新しいことを学習していくために役立っていると考えられています。さて、ここまでの一段落のことは「睡眠と夢見の系統発生と個体発生」【これも必読】に書きました。

まずは、知っておいてほしいのは、だいたい上記の内容です。



余談ですが、個人的には、朝起きるのが大変で、夜になると目が冴えてしまい、こんどは眠れなくなる、という持病があります。これを「睡眠相後退症候群」といいます。それが病気といえるのかどうかは程度の問題で、夜も人工的な照明がふつうにある文明環境では、誰しもがそういう生活になりがちだということはあります。

しかし、人間の体内時計を調べてみると、この時計の周期は24時間よりすこし長くて、25時間ぐらいだと言われています。真っ暗な部屋で何日も暮らしてもらうという実験をして、明らかになってきたことです。ということで、これは、私だけが特異体質ということではなく、誰もが陥りうる問題だといえます。

かつて私は午後の時間帯に仕事を入れることが多かったのですが、眠くなったら寝る、目がさめたら起きる、という生活をしているうちに、どんどん生活のリズムが後ろにずれていってしまい、早寝早起きに戻しても、また後にずれていってしまうという生活を送っていました。医者と相談して、毎日の睡眠日誌というものをつけてみたのですが、自分のリズムに従って生活してみると、一ヶ月に五時間も後退してしまいました。これを計算すると、1日あたりの周期は24時間10分となります(→「睡眠相後退症候群」【必読ではありません】)。1日に10分でも、一ヶ月放置しておくと、五時間もずれてしまいます。これでは勤務生活に支障をきたしてしまいます。

(とくに文系の)大学教員というのは(そして大学生も同じです)時間的な自由がきく反面、どうしても生活が自律できなくなってしまいがちです。けっきょく私は入院して、睡眠時間正常化プログラム生活に参加し、生活時間を治しました。特別なことをするというわけでもなく、集団生活の中で、朝、決まった時間に起きて、夜は決まった時間に寝る、という、強制力のもとで暮らすわけです。

脳内時計が24時間以上の周期で動いているなら、どうしてふつうは24時間周期で生活できるのでしょう。それは、太陽の光が24時間周期だからです。この光によって、脳内時計がリセットされます。

病院のプログラムで特別だったのは、毎朝、強力なライトの光を浴びながら、朝食をとるということでした。もちろん、日光をあびても同じことなのですが、この方法の利点は、天気が悪い日でも、直射日光と同じだけの光を浴びつづけることができることです。これは、自宅でもできます。

その後、毎朝6時ごろに自然に目覚めるようになりました。目覚まし時計に起こされて気持ちが悪い、ということが、めっきり減りました。面白いものです。

さらに余談が長くなってしまいますが、最近は、スマホで、睡眠サイクルを記録してくれるアプリがいろいろ開発されています(→「スマートフォンの睡眠記録アプリ」【必読ではありません】)。ふつう、眠りに入るときは、深い眠り、ノンレム睡眠から入るのですが、目覚めるときは、レム睡眠から目覚めます。朝の最後のレム睡眠をとらえて、そのタイミングでアラームを鳴らしてくれるアプリもあります。それで、スッキリ目覚めることができるというわけです。



さて今日もまた夜になってしまいました。教材はすでに全部アップしてあるとはいえ、講義ノートが前日の夜になるのは遅いので、前日ぐらいには、と思いつつ、今夜も遅くなってしまいました。病気とまではいえませんが、体質というのはなかなか変わらないものです。

今夜から明日の朝にかけても、この講義ノートもまた加筆するかもしれませんが、ざっと目を通してもらえると、ディスカッションのときに、話が早い、と思います。



CE 2020/10/01 JST 作成
蛭川立