【講義ノート】「不思議現象の心理学」2020/07/03

今週は、PK(念力)、つまり、心の力によって物に作用を及ぼすことができるか、というテーマを扱います。

講義がすべてオンラインになってしまい、教室でスプーン曲げを実演することができなくなったのは残念ですが、ロンドンのユリ・ゲラーさんのお宅にお邪魔したときの写真を「「超能力」と心物問題【必須】」にアップしておきました。ユリ・ゲラーのスプーン曲げをマジックで再現した手品師のジェームズ・ランディさんにお目にかかったときの写真もあります。

いっぽうで、地道な実験的研究については「PKの実験研究【前半は必須】」に書いておきました。いきなり量子物理学などの抽象的な話になっていますが、PKの実験の歩みについては、じつは石川幹人先生の「PKの実験」のほうがもっとわかりやすく読めます。(そもそも、この「不思議現象の心理学」は、石川先生の講義だったのですが、石川先生が大学院のほうのお仕事で非常にご多忙になってしまったため、私が引き継いだ講義なのです)

上の二つのリンクに「必須」と書きましたが、スプーン曲げは本当なのかトリックなのか?というのはわかるけれども、なにか急に哲学や物理の話に飛んでしまって、なんだかよくわからないかもしれません。

よくわからない理由の一つは、私の書き方が悪いからです。というよりは、すみません、説明が足りないところは、ほんらいなら教室での授業で補うべきところなのですが、今年度は、それができない代わりに、よくわからないことは、どうぞ、掲示板のほうで質問してください。

そして、よくわからない、もうひとつの理由は、不思議現象は奥が深いからです。スプーン曲げは、じつはマジックなのではないか?とか、トリックなのではないか、というぐらいの話なら、YouTubeにタネ明かし映像がたくさんありますし、言葉で説明されるよりも、動画で見たほうがわかりやすいでしょう。けれども、どうやってスプーンを曲げられるかなど、大学で勉強するほどのことでもありません。

教材の本文にも書いたことの繰り返しですが、腕や指は、曲げようと思えば、そのとおりに曲がります。わざわざ曲げようと思わなくても、無意識のうちに、自然に曲がります。しかし、脳や神経や筋肉の病気になると、思うように曲がらなくなります。そのときに、思うように曲がることの不思議さがわかります。病気にならなくても、病気になったときのことは想像できます。

そうすると、みなさんの一人ひとりの頭の中にある、脳という神経細胞のネットワークの中を電気信号が飛び交っている、そういう物理現象から、知覚や認知や意識や思考や意志という、さまざまな心のはたらきが生じてきていることは、とても不思議なことに思えてきます。この講義は「不思議現象の心理学」というタイトルなのですが、その「不思議現象」とは、念じるパワーでスプーンが曲がるなんて本当なのだろうか、という意味での「不思議現象」だけではなく、じつは、手足が曲がることも不思議だなあ、という意味での「不思議現象」へと一般化されていきます。哲学の分野で「心身問題」とか「心脳問題」とか「心物問題」とか言われる、本質的な問題へとつながっていくのです。

ここまで読んできて、哲学だとか、ナントカ問題とか、そんなことは、どうだっていいじゃないのか、そんなことを考えなくても、生きていくのに困らないし、と思う人もいるかもしれません。しかし、その「どうだっていい」というのもまた、「実証主義」とか「実用主義」という、哲学上のひとつの立場であり、じつは哲学者の世界でも、いまでは「どうだっていい」のほうが有力な立場であり、おかしな話ですが「哲学なんて面倒だからもう不必要だ」というのがいまの哲学の主流なのです。

あるいは、スプーン曲げはマジックなのだから、面白いのだから、べつにタネを暴く必要はないではないか、と思う人もいるかもしれませんし、「不思議なこと」は「不思議なこと」なのだから、科学では解明できないし、科学で解明してもしかたがないという意見も(西洋に比べると日本では)よく耳にします。しかし、この場合の「科学」とは、どういう作業のことなのでしょうか。面白いエンターテインメントから、面白さを奪ってしまうような作業なのでしょうか。人間の心の神秘を解体してしまう作業なのでしょうか。そんな「科学」なら、やらないほうがいいのかもしれません。しかし、これがまた現在の科学哲学では「科学で全て解明できるわけではない、ひょっとしたら何も解明できないかもしれない」といった、否定的ともいえる議論が主流なのです。

スプーン曲げの話から、ナントカ問題だとか、ナントカ主義だとか、やはり話が飛びすぎなのですが、あと一ヶ月かけて、もうすこし、できるだけ具体的な例を挙げながら、ていねいに説明していきます。どうか、お付き合いください。

今回もまた前日の夜になってバタバタと講義ノートを書いておりますが、200円ほどの予算があれば、NHKの『超常現象(2)』【推奨】
www.nhk-ondemand.jp
を見てください。この中には、イギリスのロンドンで、ユリ・ゲラーさんが自宅でスプーンを曲げてみせる映像も入っています。私はこの番組の制作をお手伝いしたのですが、なかなか真面目でいい番組です。この番組のお手伝いをしたのがきっかけで、ユリ・ゲラーさんのお宅に招かれ、番組とほぼ同じような感じで、目の前でスプーンが曲がるのを見ました。この番組には、石川先生も参加した遠隔透視実験も収録されています。時間がなければ(とくに、ところどころに入っている、別のテレビ局が作ったドラマのパロディのような部分を)適当に早送りして観て、あとからゆっくり見なおすこともできます。



CE 2020/07/02 JST 作成
CE 2020/07/03 JST 最終更新
蛭川立