【講義ノート】不思議現象の心理学 2020/05/29

春学期の後半もオンライン授業となり、教室でスプーン曲げも披露できなくなってしまいました(ユリ・ゲラーさんのことは「『超能力』と心物問題』【参考】で触れました。)

けれども、授業は掲示板方式にしたほうが、ずっと活発な議論ができるということもわかって、オンライン授業にして良かったな、と意外な発見もしています。いま、社会全体がインターネットを介したコミュニケーションの実験をしているともいえます。

さて、講義の内容ですが、前日ぐらいには予習ができるようにと、書きはじめましたが、いま木曜日の夜で、まだ書き続けています。

しばらく、ウイルス感染症の話をしていましたが、そろそろ本題である、超常現象や超心理学の話に入っていきます。

私は、死の瀬戸際まで行ったことはないのですが、SARS流行下の中国だけではなく、発熱などのときに、死後の世界を垣間見たような体験をしたことがあります。こんなことを言うと自分とは無関係な怪しげな話かと思う人もいるようですが、昨年度以前の授業でレポートを書いてもらったりしたところ、二十歳ぐらいの人でも、五十人に一人ぐらいは、臨死体験のような体験をしていることがわかりました。

必修ではないのに私の講義を聞きに来ている人たちは、不思議現象が好きな人たちであって、サンプルとして偏っているという可能性もあるのですが、毎年、履修者数が数百人と非常に多いので、こういうサンプリングバイアスは、あまりないだろうと考えています。(情コミ学部の一学年の定員が500人で、3年4年あわせて1000人になります。今年度の受講者は他学部とあわせて約1000人です。)

私じしんが臨死体験のような体験をしたことがありますが、だからといって死後の霊魂は天国や地獄に行くのだと信じているわけではありません。それは、夢を見ているときのような幻覚だと考えることもできます。そのあたりから、話を進めていきます。

以下は先週の講義ノートの後半と同じ内容です。

超心理学」の科学史

例年、この授業では「超心理学」について話をしています。超心理学とは「超常現象」の研究です。

しかし、超常現象とは、意味のよくわからない言葉です。いったいなにが「超」なのでしょう。

「心霊研究」から「超心理学」へ

歴史をたどれば、超常現象の研究は、心霊研究、つまり心霊現象の研究に由来します。

心霊研究というのもまた怪談のような用語ですが、ようするに、肉体の死後も霊魂は残るのか、という問題を、宗教ではなく科学によって研究しようという研究です。

臨死体験の中で、自分の意識が自分の肉体から離れて浮かんでいるような体験をすることがあります。これを体外離脱体験といいます。通俗的には幽体離脱という言葉を使うこともあります。

臨死体験は、死に瀕するような状態ではなくても、熱を出したり、麻酔が効きすぎたときにも起こります。体外離脱体験は、夢うつつの時、睡眠麻痺(金縛り)のときにも起こります。ということは

「肉体の死後も霊魂は残るのか」

という問いかけは、もっと一般的に

「肉体から離れて精神が活動しうるのか」

という問いかけに拡張できます。

もうすこし難しくいえば、心や意識という精神的経験は、脳などの物質的な肉体とは独立でありうるか、という問いかけです。これは、哲学の分野では二千年以上にわたって真面目に論じられてきたもので、心身問題とか、心脳問題とか、心物問題とよばれます。

「霊魂」という日本語を使うのが怪しげなのかもしれません。「精神」とか「意識」とか「心」といっても、だいたい同じような意味です。

心霊研究という言葉を使うと怪しげに聞こえますが、心身問題といえば、哲学の基本問題であり、正統的な学問なのです。

心霊研究や超心理学をめぐる歴史については「『心霊研究』から『超心理学』へ【参考】」に長い文章を書きました。また「『心霊研究』と『超心理学』の科学史」【参考】に、研究史の年表を書きました。必要におうじて参照してください。

超心理学」は何を研究するのか

人間の心が外部の物質世界とやりとりするときには、常識的には、物質的な身体を介して行います。

知覚

知覚、たとえばものを見る場合は、ふつう、以下のような図式になります。

外部の現象(物質)→眼・耳など(物質)→感覚神経(物質)→脳(物質)=心(精神)

もし、心や意識が感覚器官を介さずに直接、物質的な現象を知覚できるとしたら、以下のような図式になります。

外部の現象(物質)→心(精神)

こういう知覚のことを「超感覚的知覚(ESP)」「感覚外知覚」などと呼びます。近くにあるけれども箱の中に入っていたりするものの場合を「透視」、遠くにあるものの場合は「遠隔視」とも言います。

運動

運動の場合は、知覚の逆になります。

心(精神)=脳(物質)→筋肉(物質)→動かされるもの(物質)

もし、心や意識が手足などの運動器官を介さずに、直接、外界の物質を動かせるとしたら、以下のような図式になります。

心(精神)→動かされるもの(物質)

これを「念力(PK)」や「念動」といいます。念を込めて相手の体に作用して「ヒーリング」を行うのも、これの一種です。

コミュニケーション

運動と知覚を組み合わせたものとして、コミュニケーションがあります。たとえば、会話を例にとってみましょう。

心(精神)=脳(物質)→運動神経(物質)→口(物質)→音波(物質)→耳(物質)→感覚神経(物質)→脳(物質)=心(精神)

音波というのは空気中の分子(窒素や酸素など)を伝わる波です。気体状の分子は目には見えませんが、物質です。真空中では音は伝わりません。

これに対して、心と心が直接コミュニケーションできるとすると、以下のような図式になります。

心(精神)→心(精神)

たったこれだけです!

これを「テレパシー」といいます。和訳して「精神感応」ともいいます。

「テレ」というのは、遠くに離れている、という意味です。言葉がなくても相手と気持ちが通じ合うということはよくあります。それもテレパシーかもしれませんが、お互いに相手の微妙な表情や仕草を見ているからなのかもしれません、本当にテレパシーなのかどうかは、たとえば別々の部屋にいる二人の人間の考えていることがお互いにわかるかどうかを調べなければなりません。

超心理学は、こうした現象が存在するという前提で研究をするわけではなく、それがあるのかないのかを調べるための研究です。たとえばテレパシーが本当にあるとしたら、ある部屋にいる人が考えていることが、ほかの部屋にいる人にわかるか、といった実験をしなければなりません。

(5月29日の授業は、ここまでにしておきます。以下に、参考映像を挙げておきます。必読リンクはありません。)

参考映像

【1】『超心理学』対談出版イベント

以下の映像は、もともとこの講義「不思議現象の心理学」を立ち上げた石川幹人先生との対談です。時間があればぜひ見ておいてください。対談では敢えて私が批判的な意見を述べて、石川先生が説明をする、という流れになっています。超心理学という学問について、どういう態度で研究をすべきか、それがわかるかと思います。

https://youtu.be/k8_bzH4lQeo

『超心理学――封印された超常現象の科学』(紀伊國屋書店)

石川幹人・蛭川立による『超心理学』出版記念トークライブ(紀伊國屋書店新宿南口店)

石川幹人『超心理学』は、日本語で読める本としては随一ですが、同じぐらい充実した内容は、オンライン上の『超心理学講座ー「超能力の科学」の歴史と現状ー』にもアップされています。内容はとても充実しており、私が自分の教材で補う必要などないぐらいです。同僚だから、上司だから褒めているのではなく、逆にいえば、学術的にみて信頼のおけない類書が多いのです。宗教的な本も多々あります。宗教が悪いとは言いません。ただ、宗教と科学は別のものなので、混同してはいけないのです。

【2】参考映像(2)

講義が聴けないぶん、本を読むのもよいのですが、映像で観るのも直感的にわかりやすいものがあります。心霊現象やオカルト的なテーマを扱った番組は、興味本位で学術的には問題のあるものが多いのですが、私じしんが制作に携わった『超常現象』は、なかなかよく作られた番組ですから、しばしば授業で紹介してきました。

どちらかといえば、第一集のほうが「身体と意識」の講義内容と関係し、第二集のほうが「不思議現象の心理学」の講義内容と関係します。

ザ・プレミアム 超常現象 第1集「さまよえる魂の行方」(2014年1月11日放送)

www.nhk-ondemand.jp

幽霊、生まれ変わり、透視、テレパシー…。超常現象を、科学的に解明しようという試みが、急速に進んでいる。第1集は、死後の世界や魂の謎を解明しようという科学者たちに迫る。イギリスで行われた幽霊城の大規模調査。電磁波や低周波音測定器などの最新機器が異常な数値を捉えた。その分析からは、心霊現象の意外な正体が明らかに。さらに、子どもたちが語る前世の記憶や、臨死体験の証言を、科学的に分析する試みを追う。

ザ・プレミアム 超常現象 第2集「秘められた未知のパワー」(2014年1月18日放送)

www.nhk-ondemand.jp

念力、テレパシー、透視、予知…。「超能力」と称される不思議なパワーは本当に存在するのか?トリックや思い込みだとする風潮が主流を占める中、その真偽を最新の科学的手法で見極めようと挑む研究者たちがいる。脳科学や統計科学を駆使したさまざまな実験から、ごく普通の人々にも科学では説明がつかない不可思議な能力が備わっているという驚くべき可能性が浮かび上がってきた。科学の先にある謎は、私たちに何を物語るのか。

220円で視聴が可能です。それだけの経済的余裕があれば、ぜひ観てもらいたい映像です。ただし、視聴期限が72時間と決まっています。990円払うと「見放題」になります。

なお、YouTubeなど、インターネットにアップされている動画については、とくにテレビ番組をアップしてある動画が多いのですが、これには著作権などの問題があります。古い番組で、テレビ局に問い合わせても保管されていないような番組がネットで見られるのは便利なのですが、この点についての私の考えは「インターネット情報の普遍性と著作権について」に書きました。



(以下は、来週以降の参考です。以下のような内容を詳しく説明しようとすると(皆さんがその内容を理解しようとすると)、まだ何時間もかかってしまうでしょう。リンク先で画像が表示されないという不都合が起こっているようです。ご指摘いただければ対応します。)

超心理学の研究成果

百年ほどかけて地道な研究が行われた結果、テレパシーとESPについては、どうもありそうだという実験結果がえられています。PKについても、なにかありそうだという研究結果です。しかし、扱う対象が難しいので、なかなか結論が出ないまま、いまに至るというのが現状です。

かりにテレパシーという現象があるとしても、その正体がわからないからです。たとえば、声は音波であり、空気の分子の振動です。相手の顔が見えるということは、光という物質を媒介しています。もし真空なら音は伝わりませんし、真っ暗なら相手の姿は見えません。では、なにがテレパシーを伝えているのか。それは未知の物質なのか?もし物質がテレパシーを伝えるのだとしたら、それはテレパシーではない?といった、哲学的に入り組んだ議論になってしまいます。

もしESPが存在するなら、テレパシーというのは、相手の脳内を透視しているのではないか、という議論もあり、区別ができなくなってしまいます。ですから、ESPとテレパシーの研究は合わせて行われてきました(→「ESPの実験研究」(未完成)【参考】)。

それから、PKの研究については「PKの実験研究」(未完成)【参考】をご覧ください。



CE2020/05/27 JST 作成
CE2020/05/28 JST 最終更新
蛭川立