【講義ノート】「人類学B」2019/12/02

前回までの講義では、オーストロネシアのメラネシアミクロネシアの社会のことを議論した。今回の講義では同じオーストロネシアでも、ヘスペロネシア(→「ヘスペロネシア」)のバリ島の文化を取り上げる。基層文化である根栽農耕を生業としていた社会に稲作が伝わって、より社会の階層化が進んだという点では、弥生時代に稲作が伝わったことをきっかけにして、国家への道筋を進んだ日本の歴史とも並行している。


バリ島(ポイントはギアニヤール県プリアタン村)

インドネシアはオランダ領東インドとして植民地支配を受けていた地域であるが、バリ島については伝統文化は保護され観光化され、伝統文化のある側面は観光化によってさらに発展した。バリ島民の文化については拙著『彼岸の時間』の「象徴としての世界 −バリ島民の儀礼と世界観−」やWEBアーカイブ『世界観の人類学』の「バリ島民の世界観」で概観している。また現地で撮影した映像の一部はYouTubeの個人ページにアップしている。
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自作自演の映像作品『死生観の人類学』の中でも火葬儀礼などの映像を使っている。講義では、バリ島民の宗教儀礼の典型的なものとして、この火葬儀礼から話をはじめたい。盛大な祭礼である火葬儀礼は、インドから伝わったヒンドゥー文化の死生観の表現であると同時に、いっしゅの「ポトラッチ」として、階層化された社会における富の再分配という機能を果たしているとも考えられる。

より一般的な議論は来週以降の講義でふれることにしたいが、バリ島民の世界観においては象徴的な二元論が高度に発達している。この「自然/文化」という二元論にもとづく世界観は、人間の社会に広く認められるものである。文明社会ではむしろ自然への回帰が叫ばれているが、それは伝統社会における二元論と構造は同じで価値が逆転したものとして理解することができる。



2019/12/02 JST 作成
2019/12/08 JST 最終更新
蛭川立